【有機化学】ピロールとピリジンの性質をまとめました!【ヘテロ芳香環】
今回もウォーレン有機化学を参考にしているニャ
ヘテロ芳香環とは?
こちらの記事でも解説したように、すべての原子でπ電子が共役した環構造を芳香環といいます。
例えば、ベンゼンは最も有名な芳香環だと思います。
ヘテロ芳香環で有名なものは、ピリジン、インドール、フランなどがあります。
【有機化学】芳香族とは?判定法を解説します!【ヒュッケル則】
この記事を読むと、なぜこれらの化合物が芳香族なのかわかると思います。
構造式を見てもらえば分かるように、環構造の一部がヘテロ原子(炭素と水素以外の原子)で構成されています。
このヘテロ原子によって、ヘテロ芳香環はベンゼンとは少し異なる性質を示します。
この記事ではヘテロ芳香環のうち、ピロールとピリジンに注目して解説しようと思います。
ピロール
ピロールの構造式を上に示しました。
π電子は全部で6個あってヒュッケル則を満たしています。
正確に電子数を数えることができますか?
次の画像のように電子が配置されています。
窒素原子のσ結合はsp2混成軌道で、非結合電子対はσ結合とは垂直に伸びているp軌道に入っています
。
なのでπ電子を数えると6個となります。
ピリジン
ピリジンの構造式を上に示しました。
ピリジンのπ電子の数は分かりやすいですね。
ベンゼンと同じようにπ結合に使われる電子(p軌道の電子)を数えればよいので、6電子です。
ピリジンもヒュッケル則を満たしているため芳香族とみなせます。
水溶性
ピリジンは水と任意の割合で混合できます。
しかし、ピロールは水にほとんど溶けません。
この理由は水素結合が大きな理由です。
ピリジンの窒素原子は水と水素結合を形成します。
では、ピロールの窒素原子も水素結合を作るのでは?と思うかもしれません。
しかしピロールの場合は水素結合を形成しません。
この理由はなぜでしょうか?
ピロールの窒素原子の非共有電子対は、π電子であり芳香環に非局在化しています。
したがってこの窒素原子は水素結合できないため、水には溶けないということになります。
塩基性
ピロールのpKbは-3.8、ピリジンのpKbは5.25です。
(pKbは塩基性度で、数字が大きいほど塩基性度が大きくなります)
なぜこのような違いがあるのでしょうか?
その答えは、π電子の非局在化です。
先ほどの水溶性の話の中にも出ましたが、ピロールの非共有電子対は非局在化されています。
したがって、プロトンをキャッチすることがほとんどできなくなっています。
もしプロトンを捕まえたとしても、芳香族性が崩れてしまうため、かなり不安定化されてしまいます。
なので、すぐに脱プロトン化されてしまうと考えられます。
一方でピリジンの非共有電子対はsp2混成軌道に収納されているため、芳香属性には関与していません。
よって自由にプロトンを捕まえることができるため塩基性度が大きくなります。
イミダゾールとピロール
イミダゾールは窒素が2つ含有された芳香環です。
この記事の本題とは少し離れますが、良い機会なので少しだけイミダゾールについて話そうと思います。
イミダゾールのpKaは14.5、pKbは7.0です。
一方でピロールのpKaは16.5、pKbは-3.8です。
したがって酸性度も塩基性度もイミダゾールの方が高いと言えます。
この理由を考えたいと思います。
まず、塩基性度について。
ピロールの塩基性度が低いことはすでに説明しました。
イミダゾールは2つの窒素原子を持ちますが、これらをピリジン型窒素とピロール型窒素と分類します。
ピロール型窒素はそれ自体に塩基性はありませんが、非局在化によってピリジン型窒素の塩基性度を高めます。
また、非局在化されたカチオンの電荷が2つの窒素原子に均等に分布することで大きく安定化されます。
これらの作用によってピリジンよりもさらに大きな塩基性度を持っています。
次に酸性度について話します。
これは塩基性度で話した性質と似ています。
脱プロトン化したピロール型窒素は、アニオンが非局在化します。
負電荷が2つの窒素原子に均等に分布することで大きく安定化されるため、酸性度が大きくなっています。
芳香族求電子置換反応
ここからは、ピリジンとピロールの反応性について話そうと思います。
ピロール
ピロールは求電子剤との反応性が非常に高いです。
この理由は、五員環であることに起因します。
ベンゼンなどの六員環の芳香族と比べて、ピロールは5個の原子にπ電子が6個分布しているため電子豊富な化合物となります。
したがって、電子不足な求電子剤との反応性は高いと言えるでしょう。
では反応機構を見ていきましょう。
基本はベンゼンの芳香族求電子置換反応と同じですね。
ここで注意しておきたいことは、ほとんどの反応剤は2位または5位で反応します。
カチオン中間体に注目した時に寄与の大きい極限構造式が多いためです。
3位だけに置換基を導入したい場合は、5位にエステルを付けた後に置換基を導入すると良いです。
エステルは加水分解後に加熱すると脱炭酸できます。
ピロールは求電子置換反応の反応性が非常に高いため、酸性条件で重合します。
したがって、ピロールを反応させる場合には反応条件に注意しなくてはいけません。
ピリジン
ピロールとは逆に、ピリジンは求電子置換反応を起こしにくいです。
六員環でπ電子が6つというのはベンゼン環と同じです。
しかし、その反応性はベンゼン環よりも低いです。
ピリジンの窒素原子が非局在化した電子を引き寄せることで、炭素原子が電子不足になるからです。
また、激しい条件で反応させた場合には3位で求電子置換反応が起こります。
メトキシ基(-OCH3)やアミノ基(-NR2)のような電子供与によって環を活性化する置換基がある場合には、求電子置換反応を起こします。
求核置換反応
ピロール
ピロールは求核置換反応を起こしにくいです。
電子豊富な芳香環のため、求核剤の非共有電子対が近づきにくいためです。
しかし、電子求引基が置換されたピロールでは求核置換反応を起こします。
ピリジン
ピリジンは求核置換反応を容易に起こすことが知られています。
電子不足の芳香環のため、求核剤の非共有電子対と反応しやすいのです。
また、中間体が安定なので、2位と4位での反応性が高いです。
まとめ
ピロールとピリジンの性質の違いについて分かりましたか?
①芳香環の窒素原子の軌道と②中間体の安定性について理解することさえできれば、性質や反応性についても理解しやすいと思います。
近々ピロールとピリジンのの合成についても書こうと思っているのでお楽しみに!
感想や指摘があればXやメールで教えてください!
SNSで感想をシェアしてね↓